Cara Tesoro
映画「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編 第1章」の挿入歌で、エマ・ヴェルデのソロ楽曲です。
劇中でも「ボーカルを活かすために溜めを作った方がいい」などと議論されていたように、抑揚、リズム、緩急、用いられる楽器などが曲の展開に応じて次々と変化していくダイナミックな曲であり、まるで風景・天候・季節・時代などが目まぐるしく入れ替わり続けているかのようです。そんな中でもエマの温かくも美しく伸びやかな圧倒的ボーカルが曲をさらに澄み渡るように壮大に、それでいて一本の芯が通っているようにまとまりを持って彩ってくれます。
沖縄の民族衣装・琉装を取り入れた衣装に、沖縄の楽器・三線を用いた楽曲と、これでもかと沖縄要素が散りばめられており、"この時この場所だからこそ 湧き上がる気持ちを大切にしたい" という歌詞が衣装や楽器にも表れていますし、哀温ノ詩にも見られる日本文化を大切にするエマの温故知新の心も感じられます。一方でアニメ1期挿入歌であるLa Bella Patriaに続き、スイス出身のエマの母国語であるイタリア語も曲名をはじめとする歌詞の要所で使われおり、自分を形作ってきたものすべてにリスペクトを持つエマらしさが伺えます。
1番で歌われる "駆ける雨音 靴濡らして 青い海の向こう こえてく" や、2番の "香る潮風 頬をかすめて 青い海の上 走ってく" などでは青い海へと雨や風が過ぎ去っていく描写だと思いますが、これも東京から海を越えてやってきた沖縄、スイスから海を渡ってやってきた日本などを感じる、今このときのエマらしい情景です。一方で、この歌詞のポイントは雨雲や風も1つのところに留まるのではなく、時間と共に移り変わっていくということだと思っています。この曲には "感じる" という歌詞もよく出てきますが、"靴濡らして" や "香る"、"頬をかすめて" など、五感を通してそれを感じ取っているのも好きなところです。
アニメ2期11話「過去・未来・イマ」でも、エマが「昨日や明日のことで悩んでたら、楽しい今が過ぎちゃうよ」と口にしていますが、この過ぎ去っていく時間の中で今を大切にするという想いが人一倍強いのがエマだと思っています。これまでの記事でも「えいがさきの挿入歌全体として「今」というテーマも一貫していると思っている」と書きましたが、それが1番わかりやすく、それそのものがテーマとして描かれているのがこのCara Tesoroではないかと思っています。
この曲では "季節巡っても" という歌詞が何度も出てきますが、楽曲のMVでも春夏秋冬それぞれのイベントを同好会のメンバーと楽しむエマのカットが出てきます。実際にそのイベントが行われたのかはともかくとして、同好会と実際にそれぞれのイベントを過ごしていても矛盾のないカットになっています。"季節巡っても" と歌っていますが、3年生のエマにとっては、同好会とともに過ごす四季はこれまでアニメ1期・2期・OVAで過ごしてきた1回きりで、少なくとも同好会としてもう一度四季を巡ることはありません。卒業が近づいてきた完結編の今だからこそ余計、"一度きりの時を感じて"、"Una volta sola (= 一度きり)" などの歌詞が大事な意味を持って響いてきます。そんな気持ちで "この瞬間を一緒に刻もう"、"ありったけの現在 (いま) 奏でたい…!!"、"ただありのままの今 めいっぱい感じて" などと聞くと、歌詞を噛み締めずにはいられません。
そんな中で、過去を振り返っているような一節が、"時の中で 巡る出会い ひとつひとつが私の宝物だよ" です。思えばエマは、出会いがある度に想いを伝えるためにスクールアイドルとして歌を届けてきました。アニメで言えば、果林が踏み出し切れないときにLa Bella Patriaを、嵐珠の心を開くためにQU4RTZとしてENJOY IT!を歌いました。スクスタでも、声繋ごうよのキズナエピソードでは子供のために歌っていましたし、哀温ノ詩ではマイさんから想いを受け継いで歌いました。今回のCara Tesoroも、天の気持ちに寄り添いながら一緒に楽曲を作り、披露しました。エマの歌はいつも人との出会いとともにあるなと改めて感じます。
一方で、それぞれの曲の歌詞を考えると、必ずしもその相手に伝えたいメッセージを直接歌にしているわけではないなとも思います。La Bella Patriaは昔のブログでも書きましたが、全体として見れば果林へのメッセージというよりは留学してスクールアイドルを始めたそのときの今の気持ちを家族に伝える手紙だと思っています。ENJOY IT!も、みんなで一緒に楽しむことの素晴らしさが歌詞に表れているとはいえ、曲作りの過程で大事にされていたのはそれぞれのやりたいこと、個性を尊重することでした。このCara Tesoroも、歌詞に "天" や "糸" などが現れて天や小糸が意識されている部分はあると思いますし、1番Bメロの "胸の奥で揺れる想い 勇気の羽をつけたら 声に乗せるよ" などは小糸に想いを伝える天を応援するものになっているとは思いますが、全体を通して見ると基本的にはエマ自身が1つ1つの今が幸せで、今を大切にしたいという想いを、卒業が近づく今だからこそ歌っている、というのが1番大きなメッセージのように感じています。この「あくまで相手のための歌ではなく自分自身の気持ちを歌にするけど、歌ってパフォーマンスすることで今の相手にとって大事なメッセージを伝えられる」というのがエマの歌のいいところだなと僕は個人的に思っています。
全体がエマ自身の想いだと考えながら "天橋立ちゆく 心に満つる 笑ひあふるる 花盛るが如し" という突然現れた古文のような歌詞を見つめ直すと、「天に架かる橋」というのは虹なのではないかと思い当たります。「虹が架かっていき、心が満たされて、笑いに溢れていて、花がたくさん咲いているようだ」と解釈すると、「虹」から「咲く」に繋がることからも、そしてスクールアイドル活動を同好会と一緒に楽しんでいるエマが見た光景としても、虹ヶ咲を思い浮かべてしまいます。
そんな歌詞に続く "時の中で 巡る出会い ひとつひとつが私の宝物だよ" は、マイや子供や天や小糸、同好会や他校のスクールアイドルのみんなとの出会い、そしてそこから生まれた楽曲や思い出、それらがエマにとって宝物だと言っているように感じます。歌詞の "Tesoro mio! (=私の宝物)"、そして曲名にもある "Cara Tesoro (=愛しい宝物)" は、そんな様々な出会い、そこで知ったたくさんの感情、そしてそれらを導いてくれたそのスクールアイドル活動そのもののように、僕は捉えています。そして、落ちサビの "Una volta sola この瞬間を抱きしめていたい 季節巡ってもずっと大好きだよ"。他のパートでは基本的にエマの綺麗なボーカルをそのまま活かしていた中で、このパートでは軽くリバーブがかかったように声が立体的に聴こえ、まるで密室の中のような心の内に響く声のように聴こえます。"季節巡っても 大好きだよ" は、時が経ってこれから別れがあるかもしれないけど、それでもずっと大好きだよ、というメッセージに感じます。今を大切にしようとしているエマが、"この瞬間を抱きしめていたい" という「今が今のままずっと続いて欲しい」とも取れる歌詞を、心の声の吐露のように歌う。そして今が過ぎ去ってもずっと大好きだよと歌う。このパートを聴く度に心が張り裂けそうになりますし、そんな気持ちで改めて歌詞を1つ1つ見ていくと、エマにとって大切な想いがたくさん散りばめられていることが改めてゆっくりと滲んできます。
エマがラストライブをやることがあったときにこの曲を聴いたら本当にもうダメだなと思っているんですが、これが完結編であり、第2章では第1章で描かれなかったメンバーのソロをやると思うと、第3章でエマがソロをやる時間が確保される可能性はかなり低く、アニメ世界の中ではまだまだライブするんだとは思いますが、僕たちの視点からは実質アニメでのエマのラストソロパフォーマンスがこのCara Tesoroである可能性もかなり高いと思います。そういう気持ちで改めてえいがさきを観るのは、精神的に全くオススメはしませんが、また感覚が変わるのではないかと思います。
一方で、過去や今の話だけでなく、未来の話も "季節巡っても 永遠に咲くメロディー この瞬間が 未来紡ぐ糸になる" という歌詞に含まれています。エマはスイスにいたときに哀温ノ詩を歌っていたスクールアイドルの「今」に心を動かされて日本に来て、哀温ノ詩を引き継いだマイのスクールアイドルとしての「今」をさらに引き継いで、エマの「今」があります。この経験がエマ自身にあるからこそ、「今」の想いを紡いでいくことが未来へ繋がると心から考えられるのではないかと思います。天と披露したこのCara Tesoroが、今度は天と小糸に、もしかしたらまた別の誰かに引き継がれて、また新しい「今」に繋がっていく未来が訪れるとよいなと思っています。
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