PHOENIX
映画「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編 第1章」の挿入歌で、鐘嵐珠のソロ楽曲です。
嵐珠の曲はどこか中国の空気を感じる音作りの楽曲が多かったですが、この楽曲では細かくところどころそういった部分もありつつも、派手さよりもストレートな力強さがより際立っており、嵐珠の素直な心の声を支えながら、彩りながら、時には後押しするように響いてきます。
歌詞は全体を通じてこれまでの嵐珠の人生が語られていると言ってもいい内容で、虹ヶ咲に出会う前の気持ち、出会ってから芽生えた感情、仲間になった今の想いが英語や中国語を交えながら綴られています。ここまで仲間への想いを綴った嵐珠楽曲は今までにはなかったなと思う一方で、どんなときもそのときの気持ちを全力で剥き出しにまっすぐに歌に乗せているのは、嵐珠の純粋無垢なあどけなさとブレないカッコよさのどちらもが伝わってくる嵐珠曲のよさだなと改めて感じます。
歌詞を追って見ていくと、イントロからAメロにかけては、「強さとは何もかもを犠牲にすることで得られる」と思っていた過去の自分の気持ちが語られています。2期の、特に序盤の嵐珠は同好会での馴れ合いを嫌っていて、まさにこの気持ちがあったのではないかと思います。これがAメロ後半の "寄せては返す波 日差し煌めく度 心奪われて" の部分で、自分の心に変化が訪れたことが伺えます。これは虹ヶ咲に出会ったことの比喩だと思っていますが、同時にMVで描かれる社会人としてデスクワークをしていた嵐珠が日常を抜け出して沖縄旅行に来て自然との触れ合いで笑顔になっていく描写とも呼応していると思っています。
Bメロに入ると、これまでを受けての今の気持ちの描写になり、自分の心が何に動かされ、どう変化したのかが描かれます。TVアニメ2期1話で披露されたEutopiaでも嵐珠は "もっと熱く高く"、"どこまでもHigher" と高みを目指していましたが、"孤城から見渡す景色" や "Top of the world" とあり、あくまで地上の中で高い場所をイメージしている印象でした。今回の楽曲では、それこそ PHOENIX とあるように "私らしい翼は この背中にある" と、鳥のように自由に空を飛ぶことでより高いところまでいけるという気持ちが表れているように思います。"好了,接下来去哪儿? (=じゃあ、次はどこに行こうか?)" という言葉からも、向かう場所さえ自由になったことを感じます。
そしてサビでは今思い描く未来、これからどうしていきたいのかが歌われます。"無限色" という表現が、それぞれの個性の輝きを色とりどりの虹に例える虹ヶ咲らしい表現であるとともに、これまでのように1人きりではなく、自分も無限色の1つとしてみんなと一緒に進んでいきたいという想いが感じられます。"私はここでみんなを感じて飛びたい" というサビ最後の一節は、「私 = 嵐珠」が「ここ = 虹ヶ咲」で「みんな = 仲間」を感じて「飛びたい = より自由により高いところへと羽ばたいていきたい」という、これまでの歌詞がこれでもかと詰め込まれた表現だなと思います。個人的にこの曲で歌われている「みんなのおかげで変われたから、これからもみんなと一緒に進もう」という気持ちは1期9話で果林が披露したVIVID WORLDにも 近いものがあると思っていますし、"無限色" と "Just like a Rainbow Colors" は実質的に同じもののように感じます。
2番も基本的には1番と同じ構造だと言えますが、Bメロの "星座が巡る度 月満ち欠ける度" は、美しさの描写というよりは時間が経過し続けていることの描写だと思います。さらに続くサビでは1番では "出会ったからもっと" だったところが2番では "呼応し合ってもっと" と変化していることから、2番では実際に仲間となってからの日々の想いがより強く描かれているのではないかと思います。1番では "私らしい翼" で自分だけだったところが2番では "私達らしい羽音" とみんなの話になっているところからも、それを感じます。そう考え直すと、1番はまだ虹ヶ咲の存在を知って好きになってから香港から日本へちょうど来たところくらいまでの時間に対応している、と解釈し直すこともでき、1番のサビの最後が "みんなを感じて" であって「みんなと一緒に」ではないのは、その時点ではまだ一緒にやるというよりは近くで感じられればよいと思っていたから、と考えることもできるかもしれません。
Dメロでは "まだ熱く高く" と Eutopia にもあった "もっと熱く高く" と同じような表現から始まり、2期9話「The Sky I Can’t Reach」との対比を思わせる "The sky's the limit"、そして2期10話で同好会に馴染むきっかけをくれ、えいがさきの劇中でも母親との仲を取り持ってくれたかすみの無敵級*ビリーバーを思わせる "believe 無敵になれるよ" など、これまでの物語での嵐珠と虹ヶ咲の軌跡を改めて振り返るような歌詞が続きます。
さらにEutopiaとの対比で言えば、Eutopiaの時点では "Anyone can keep up with me? Anyone? (=誰か私についてこられる?)"、"Just follow me! (=ただついてくればいいのよ!)" だったのが、PHOENIXの2番サビ前では "来吧, 一起去吧 (=来て、一緒に行こう)" となっていて、自分が先頭に立って周りを引っ張っていくのではなく、みんなと並んで一緒に歩んでいきたいという気持ちの変化が表れているように思います。
そしてラスサビでは1サビの歌詞に戻ってきますが、ラスサビはえいがさきでの歩夢への想いに当てはまると考えてみると、出会った頃も今も虹ヶ咲にトキメく気持ちは変わらないけど、今は一人きりではなくみんなと一緒に、一緒だから辿り着ける先に進もうという、新鮮な気持ちでこの歌詞を受け止め直せるのではないかと思います。
これまでの記事で「えいがさきの挿入歌全体として「今」というテーマも一貫していると思っている」と書いてきました。この楽曲ではまさに今の嵐珠だからこそわかる、嵐珠のこれまでの気持ちと今の気持ちの変化、そして今のありったけの大切な気持ちが詰め込まれた楽曲だなと思います。虹ヶ咲のことが本当に大好きで、だからこそ立ち止まっていられず自分も走り出したくてたまらない、そんな嵐珠の湧き上がり溢れ出す想いに触れ、嵐珠も間違いなく「仲間でライバル、ライバルだけど仲間」を体現する虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の一員なのだと感じさせてくれる楽曲です。
最後に、楽曲のタイトルであるPHOENIX (フェニックス) は、日本だと一般には不死鳥を思い浮かべることが多いと思います。幾度も躓いた経験から何度も立ち直る姿の比喩として不死鳥という解釈もあると思いますが、僕はここでは中国のPHOENIX、すなわち鳳凰のことではないかと思っています。鳳凰に関する中国語のWikipediaにも、中国における鳳凰は英語で Chinese Phoenix、あるいは単に Phoenix と呼ばれる、とあります。鳳凰は色とりどりの羽を持つことで知られており、まさにこの曲で表現されている "輝き出す虹光 私たちらしい羽音を" にぴったりではないかと思います。
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