Daydream Mermaid
映画「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編 第1章」の挿入歌で、近江彼方のソロ楽曲です。
竜宮城を感じさせるようなメロディーや水中でエコーがかかったようなエフェクト、幻想的なコーラスやハモが海底を思わせながらも暗い印象ではなく、BPMやリズムギターの速さから陽の光が眩しく差し込む明るい印象を受けます。最近は彼方もアップテンポな曲が増えましたが、ラップパートが含まれることでさらに彼方の好奇心から前のめりになるあどけない勢いがさらに押し出されている感じがします。
曲そのものの話から少し逸れますが、映画の劇中では曲の披露前にしずくとの会話が入り、「最近は家族とよく話す」「衣装作りや調理師の資格、デザインの勉強などやりたいことがたくさんある」という彼方の今の想いが語られます。個人的にはこのやりたいこと達は進路を意識しているようにも感じられ、家族とこの先やりたいことを話すというのも、進路相談の意味も含まれているのではないかと推察してしまいます。もし1期7話の時点で彼方が「わがまま」を我慢し続ける選択をしてスクールアイドルを諦めていたとしたら、家族を優先して卒業したらすぐに少しでも稼げる仕事に就いて、自分のやりたいことの勉強をしたり、それを仕事にする選択肢を取らなかったかもしれない。そんなことを考えながら、改めて自分に「わがまま」がたくさんあることを家族も含めみんなに堂々と嬉しそうに語る今の彼方が見られて本当によかったなと思ってしまいます。そんな彼方の「わがまま」、そして「わがまま」がたくさんある今が、自分が好きになれたという幸せがたくさん詰め込まれた曲がこのDaydream Mermaidだなと感じます。
例えば歌詞に "胸の奥深く深く 眠ってたみたいcuriosity (=好奇心)" や "きっと求めて初めて見えたドア" などの表現がありますが、これは彼方自身も自分にこんなにも「わがまま」があると意識していなかったけど、無意識のうちに押し込んでいた「わがまま」、自分でも気付かずにいた「わがまま」がたくさんあったことに、「わがまま」をしてもいいんだ、しようと思えるようになったことで初めて気付くことができた、というニュアンスに感じます。"夢見て描いて願って それがはじめの一歩だって now I believe it!" も、わがままになることがわがままを叶えていく第一歩だと今ならわかる、という1期からえいがさきまでの彼方の成長を感じる歌詞運びになっているように思います。
前回のRise Up High!の記事で「えいがさきの挿入歌全体として「今」というテーマも一貫していると思っている」と書きましたが、この曲ではこの「昔の彼方ではなく、成長した今の彼方、卒業を控え進路を考える時期になった彼方」だからこそ歌える曲だと感じるのが、「今」というテーマに符合すると思った理由です。"今らしさ全開で刻んでく とびきりのpresent day" が、それを象徴する歌詞という感じもします。(余談として、この "present day" は直訳すると "現在の日"、現代や今日この頃みたいな意味になり文脈にも合いますが、個人的には "present" = 贈り物と捉えて、みんなから貰った今、みたいな意味も含まれてるんじゃないかと思っています。)
MVでも会話の中で例に挙げられた3つのやりたいこと、デザインをA・ZU・NAと、料理をR3BIRTHと、衣装制作をQU4RTZと行っている様子が描かれていますが、これを改めて見ると、彼方のやりたいことは、誰かのためになること、誰かに喜んでもらえることなんだなと思います。もちろんそれぞれにその過程自体も楽しんでいるんだと思いますが、結果として生まれたものは誰かを、特に自分の大切な人に喜んでもらえるものになっているなと感じました。Cooking with Loveで自分のことは二の次で相手の幸せを願うことが第一だった彼方らしさも感じる一方、Cooking with Loveでは献身的すぎて「自分をもっと大切にしてくれ!!!」と思っていた (お前、誰?) のに対し、この曲ではちゃんと自分自身のトキメキ・わがままを大切にしながらも周りの人のためになることをやりたいと思える彼方が見られて、本当に胸を撫で下ろす思いです (お前本当に誰なんだよ)。
歌詞に "Floating in my dreams!" や "夢の海を自由に泳ごう" などありますが、dream・夢もまた、彼方にとって重要なキーワードだと思います。Märchen Starの記事 でも語っていますが、「夢」という言葉には「夜眠っている最中に見るもの」という意味と、「叶えたい目標、理想」= 彼方の言う「わがまま」という2つの意味があります。眠ることが大好きな彼方の側面からは前者の意味で、「わがまま」と向き合う彼方の側面からは後者の意味で捉えることができるので、どちらの要素も色濃く持つ彼方が使うことで「夢」という単語をどちらの意味で捉えるかを考えるのも面白くなります。
今回の曲ではタイトルにもあるDaydreamをこの角度から考えてみると、直訳では Daydream = 白昼夢 ですが、つまりは昼に起きているときに見る夢 = 現実で見る夢の意味で捉えられるようになります。この現実と夢の関係を意識すると面白くなる歌詞が散りばめられているなと思っていて、例えば "眠ってたみたい curiosity 波に揺られ目覚めだす" では、curiosity = 好奇心が目覚める = 自分の現実世界に現れる、リアルになる、という感覚でも捉えられるかなと思います。"波に揺られ" というのも同好会のメンバーや家族などの影響を受けて、というニュアンスを感じられるのも好きなポイントです。他にも、"そっと瞼開けば いつもそばに 彩りの温もりが揺れるから" という歌詞も、よくあるのは「瞼を閉じれば浮かぶ」みたいな描写ですが、ここでは瞼を開く = 夢の世界ではなく現実を見る、という感覚で捉えられますし、"彩り" はそれこそ同好会を虹色で表す表現だと思うと、"揺れる" がさきほどの "波に揺られ" にもマッチして、現実にいる同好会のみんなの存在や頑張りが彼方のわがままの力になっているんだなと感じられます。他にも、彼方曲ではよくある時計の秒針の音がサビの前に入っていたりします。これも目覚まし時計であったり、あるいはシンデレラのカウントダウンのように、時間が進むことが夢と現実の境界を意識させる要素の1つのように感じます。
Dreamの話でいうと、僕はButterflyの1番では "1人きりじゃもう 両手いっぱい広げてもまだ足りないほどに大きな Dreams" は2人の夢だから Dreams と複数形で、2番の "届きそうなほどに近づいた Dream" はそれぞれの夢なので Dream で単数形になっている (と解釈している) のが好きなんですが、Daydream Mermaid では "my dreams!" と自分の夢なのに今は複数形になっているのも好きなポイントです。Butterflyは2番に困難の比喩として雨や風が出ていますが、Daydream Mermaidも雨や風の話をDメロでしているのも密かな繋がりかなと勝手に思っています。
基本的に歌詞は海をベースにした曲かなと思いますが、MVでは宇宙に行っています。それっぽい歌詞は "意識の世界 no gravity" くらいかなと思いますが、それも水の中では (無ではないですが) 重力が軽くなることから来てる感じがしていますし、Floating (浮く) とも合致します。一方で、「星の海」という感覚で宇宙を捉えると、星といえば個人的には Märchen Star が思い浮かびます。以前のMärchen Starの記事で、「Märchen Star」とは「夢の世界 = スクールアイドルのステージの思い出」であり、それが「現実世界でも力をくれるお守り」だと考えているという話をしましたが、夢 = 星と捉えると、"水面 光映し出す Jewel dustのよう きらめいて" も、水面に光が反射してたくさんの星のように見える様子を、たくさんの夢が星のように煌めいている様子と重ねているようなイメージも浮かびます。
彼方の曲は直近の物語やその心情はもちろんですが、それまでの楽曲や物語に想いを馳せるとより深みが増して聴こえるものが多いなと思っています。この Daydream Mermaid もそんな一曲だなと改めて思いました。せっかくなので、彼方の過去の他の曲もゆっくりと味わい直してからこの曲をもう1度聴いてみるのもよいかもしれません。
P.S. スタッフトークによると衣装は人魚ではなく魚人とのことですが、振り付けは本当に人魚姫みたいでめちゃくちゃかわいいです。曲名もMermaidなんだからやっぱり人魚でいいだろ (いちゃもん)。
P.S. 「うー!」がさぁ、かわいすぎるだろ……
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