Rise Up High!
映画「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 完結編 第1章」の挿入歌で、桜坂しずくのソロ楽曲です。ケンモチヒデフミによる打ち込みトラックながら、ラテンの香りから南国の潮風を感じるビートが、沖縄を舞台にした劇中の展開にもぴったりの一曲です。
歌詞も "波音に誘われるままに"、"瞳の中 映る蜃気楼"、"眠ることない太陽の下"、"熱帯びた砂浜の上" など、常夏の海で解放的になっている描写が多く見られ (まあ時期は冬なのですが野暮なことは置いておいて)、南国のリゾートというアツい非日常に来たからこその空気が伝わってきます。
1番で "大胆になりたくなっちゃうのはきっと潮風と日差しのおかげかな"、2番では "とめどない情熱は君のせいだよ" という歌詞がありますが、1番では "せい" ではなく "おかげ" と言うことにより、解放したくなかったものを無理やり解放されたのではなく、本当は解放したかったけどなかなかできなかったところを、夏に後押しされて解放することができた、というポジティブな方向で捉えられます。さらに、普段清楚なしずくも心の内では大胆になりたい気持ちがあったんだ、と匂わせてドキッとさせられるニュアンスも感じられます。一方で2番は "君のせい" とすることで、「自分がしずくを熱くさせるような影響を与えているんだ」と暗に思わせることで前のめりに惹き込まれます。この "おかげ" と "せい" の使い分けが個人的にめちゃくちゃ好きです。小悪魔LOVE♡以来、完全に桜坂しずくさんの掌の上で踊らされている。途中まで「しずくとの情熱的なひと夏の恋の物語か???」と思っていたら "最高のステージを" という歌詞で「そ、そうだよな、スクールアイドルとしてだよな……」と我に返らされるのも最高に踊らされてて好きです (こんな勘違い野郎は僕だけかもしれない)。
解放といえば、"躊躇い脱いで素肌のまま" など、いわゆる物理的な解放もあり、実際衣装も水着風になっていて露出も多めです。夏は暑くて露出が多くなるから心も解放的になるのか、心が解放的になるから服装も大胆になるのか。そんな物理的な解放と精神的な解放が相互に作用している感覚が、TVアニメのSolitude Rainでも描かれたしずくの「本当の自分を晒け出す」という成長ともリンクしていて、いつものイメージとは違う自分を解放できるようになった姿が曲のテーマとマッチして描かれているように感じます。イメージカラーとは違う色がベースになっている衣装も、そんなイメージ・既存の自分とは違う自分を見せるという意思にも感じます。
演じるのをやめるという意味では、MV中でも看板から飛び出してアイスを食べに行くのも、役に縛られず自由に振る舞うという表現にも思えます。色々と衣装姿が出てきつつも最後には白ワンピースのしずくが映され、そのしずくさえ消えるというのも、「そこに本当のわたしはいないよ」という演出のようにも思います。たくさん出てくる色んな種類の椅子も様々な役の比喩で、結局どれにも座らないというのも、「役につくのではなく素の自分のままでいる」というメッセージのようにも感じます。
一方で、全く演技をしていないかというとそうではないと思っていて、沖縄という場所でのステージ、トップバッターという「役割」をしっかり務めているなとも思います。他の曲の話になりますが、僕は小悪魔♡LOVEという曲を「本当の自分を隠すため、欺くために演技する」のではなく、「相手に喜んでもらいたいという気持ちがあるから演技する」「相手に自分の本当の想いを伝えるために演技する」といった、「本当の気持ちに嘘はなくて、あくまでそれを叶えるための技術として演技を駆使する」ということが歌われた楽曲だと思っています。今回のRise Up High!の立ち位置はそれに近いところもあると思っていて、沖縄という舞台で、スクールアイドルGPXという競争の場で、自分が輝くためにどういう「役割」を演じるべきか、そういった思考も反映された結果がトップバッター、そしてこの楽曲・歌詞・パフォーマンスのような気がしています。『「素の自分を解放して大胆になる桜坂しずく」を演じる桜坂しずく』。ひねくれた意味ではなく、どこまでが「本当の桜坂しずくの気持ち」でどこからが「演技」なのか、それがよくわからなくなって惑わされるのも、しずくの魅力のひとつだなと僕は思っています。
最後に、えいがさきの挿入歌全体として、沖縄らしさがある曲というだけではなく、「今」というテーマも一貫していると思っています。それぞれのメンバーが今どういうことを考えていて、今をどう過ごしていて、今だからこそ何を伝えたいのか。これまでのニジガクのソロ楽曲もその時々の各メンバーの想いが詰め込めれていてストーリーと連動していたと思いますが、完結編・卒業の時期ということもあるのか、よりメンバーそれぞれが流れていく時間、その中の今を意識的に見つめた歌詞のように感じます。
他の曲についてはそれぞれの曲ごとの投稿で触れていこうと思いますが、この Rise Up High! であれば、"まばたきも忘れちゃうほどの瞬間を逃さないで" とか、"終わらないでと願ったんだ" などが特にそれを感じるポイントです。"最高の記憶の中 永遠に" も、今は過ぎ去っていくけど思い出になれば永遠、というような時間的なニュアンスを強く感じます。沖縄・イベント・ステージという非日常の場だからこそのアツい解放感、このイベントが終われば日常に戻ってしまうからこそ、今しか感じられない特別な胸の高鳴りを一緒に感じて、しっかり胸に刻み込もうと誘っているように感じます。誘うという意味では、普段はおしとやかなしずくがあえて自ら大胆になるギャップを見せることで、まだ躊躇っている人に「今だけは自分ももっと解放的になってもいいのかも」と思わせる効果もありそうです。自分だからこそより効果を引き出せる「役」をきっちりこなすしずく、さすがとしか言いようがありません。
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